🌕6月30日高田馬場ときわ座、7月13日国立ギャラリービブリオ🌕


🟡 8月26日9月23日10月21日 (月)
世界が広がるインド音楽講座2024

🟡9月16日 音楽のあわい@祖師ヶ谷大蔵ムリウイ
Op16:30 st17:00 ¥3000+飲み物
With寺田亮平、寺原太郎。

仏伝「ナロク」⑤

アバニーンドラナート・タゴールによる
児童文学の名作、仏伝「ナロク」。
毎月1日と15日の更新で
少しずつ翻訳連載していきます。

ベンガル語の原作からの翻訳ですが、
所々英訳”Nalak”を参考にしています。

改行は、スマホやブラウザで
読みやすいような形に
工夫したものです。

息子がやがて
出家してしまうかもしれない
と言う恐れから、
シュッドーダナ王は
黄金の夢を用意しました。

笑い、楽しみ、音楽、
あらゆる喜びのまやかしを織り上げて、
シッダールタを
縛り付けようとしたのです——
黄金の籠に鳥を留めるように。

暑い日、太陽の光が強まり、
水が渇き、熱のこもった風が
四方に熱を運びます。

雨季には
新たな雨雲が現れるたびに
地上は水浸しになり、
川の流れは増します。

秋には抜けるような青空に
ふわふわとした白い雲が浮かび、
川の水が減って
砂の岸辺があらわれます。

冬には雪や霧が四方を覆い、
葉は干からびて
花は落ちます。

そしてまた春が来て、
地上は花々に覆われます。

空は芳しく朝焼けに目覚め、
南風と月の光の中、
鳥の歌の中に
よろこびが沸々と花ひらきます——

そんな時に籠の鳥が感じることを、
黄金の壁に囲まれた
聖ブッダも感じていました——
この黄金の籠を壊して、外に出たい、と。

彼には聞こえていました——
世界中、どんな大地も暑い日、
雨の降りしきる夜、秋の夕焼け、
冬の朝、春の一瞬一瞬——

カッコウのクフという声、
風のフフという音、
或いは雨のジョルジョルという音、
冬にはトルトルと葉が踏み鳴らされ、
その全てが泣きながら
彼を呼んでいるのです——

外においで、お外においで、
自由におなり、自由におなり!
三界では悲しみの炎が燃えている、
死の炎が燃えている、
悲しみと苦しみの中で
命がひからびていっている。

涙で胸が濡れて、
苦しみの洪水で
心の岸辺は土砂崩れを
起こしているのを見なさい。

よろこび——それは空の稲妻のように——
光っては消える。
幸せ——それは秋空の雲のように、
雨を降らして消える。
人生——それは冬の露、
夜茉莉花のように咲いては落ちる。
春は幸いの季節だけれど、
ずっと続くわけではない!

ああ、全ての大地で
苦しみの炎と死の火葬が
昼も夜も燃え盛っている、
その炎を誰が消せる?
この大地から恐れを
引き離すことができる人が
いるだろうか——あなたを置いて他に?

これ以上まやかしの中に留まらないで。
花の罠など引きちぎってしまって。
外においで——自由におなり!
生きとし生けるものから
恐れを取り去って!

ナロクの命、
全ての大地に生きる者の命、
空に生きる命、
風の命も、
聖ブッダを一目見たくて
ウズウズしています。

彼らの悲しみは
時に雨のように降り注ぎ、
時に嵐のように
黄金の城壁を叩きつけました。

光になって呼びます。おいで!
暗闇になって言います——自由におなり!
色鮮やかな花が花開き、
また枯れ葉になって落ちます——
シッダールタの周囲のどこを見渡しても、
世の中の移り変わりの
笑いと悲しみが、
生と死があるのです——
昼も夜も、毎月、毎年、
あらゆる形で、あらゆる所に。

ある日聖ブッダは、
真っ青なお空に
パーリジャータ(アマランサス)の
花の首飾りのように、
一群の白鳥が列をなして
飛んでいくのをご覧になりました。

なんて心躍る様子だろう!
何千もの翼を
一様にバサバサと上げ下げし、
声を響き合わせて
千の白鳥が呼び合っています。

行こう、行こう、
行こうったら、行こう!

空もその声に応えます。
雲が白い日よけになるように動き、
風は雲を押し上げて
その動きを助けます。

大地もその声に応えます。
川は海に向かって流れ、
海は川の近くに寄り添います——
山を曲げて砂を押しやります。

よろこびに満ちた、
これ程の動き、声、遊戯のただ中で、
いったい誰の手によるものか、
矢が稲妻のように走り、
一羽の白鳥の翼に刺さりました。

上がった痛みの叫びで、
世界のあちこちで波が立ちました。
矢に貫かれた
大きな白鳥の体は噴き出た血にぬれて、
千切れた花輪のように
聖ブッダの足元に落ちました。

Abanindranath Tagore’s illustration copied and reproduced (with certain re-arrangements), then coloured with Japanese watercolour by Tomomi Paromita. (挿絵を模写の上、独自に着彩。)

あのよろこびは
どこに消えてしまったのか——
風によって、この青空に
運ばれてきたよろこびは!

ほんのまたたきの間に、
この地上のすべてのよろこびが、
活力が、消えてしまった!
空はからっぽになり、
風も止まってしまった。
全ての動きが、遊びが
終わってしまった、
たった一本の矢によって!

ただ遠くの方から——
シッダールタの耳元で、
魂のそばで聞こえてくる——
泣き声に次ぐ泣き声!
胸をかきむしるような泣き声!

昼も夜も、行くも帰るも、
楽しみの中でも、安らぎの中でも、
仕事の中でも、
どんなきらびやかな楽しみの中でも、
シッダールタにはずっと
聞こえていました——
泣き声、また、泣き声が!

この世の全てが泣いています!
どんな小さな子も、
どんな年老いた人も、
泣いているのです。

昼も夜もずっと雷雨が続いた後、
闇夜が明けると
その日の雲は去っていき、
朝の光が東の空に現れました。
空も今日はよろこびに笑っています。

風もよろこびに流れ、
雲にははちみつ色の
光がうつっています。
森では鳥が、村では農夫や農婦が、
家では息子や娘たちが、
今日のあまやかな
祝詞うたを歌っています。

東の扉に立った
シッダールタは見ました——
今日はどこにも悲しみが無い、
誰も泣いていない!

見渡す限りのどこからも、
ただよろこびの声だけが
聞こえてきます。

土にはよろこびが
野菜の形を取っています。
森や林では、よろこびは
花となって咲き乱れました。
家々では息子や娘たちは
よろこびに笑顔を浮かべて、
色とりどりの衣をまとって、
あらたな遊びにウキウキと
ワクワクと声を上げています。

よろこびとは——花の雨となって
降り注ぐもの——蔓や葉っぱから。
よろこびとは——金の砂埃となって
道々を覆い、浮かび上がるもの——
ホーリーのお祭のように。

シッダールタの心の戦車——
シッダールタの黄金の馬車は
今日、よろこびのただ中を、
日の出の太陽、暗闇の終わるところに向かい、
東大路を進みます——
ゆっくりと、ゆっくりと。

心に思いました——この大地に、
今日は苦しみが無い、
悲しみがない、
涙も無い、
ただよろこびだけがある——

眠りから覚めたよろこび、
夜の闇の後に
光が得られるよろこび、
花が咲きほころぶように起き、
首飾りのように
舞うように起き上がり、
歌や竹笛の旋律の中で
目覚めることのよろこび。

この大地で、
今日は誰も倒れず、崩れず、
そのまま死ぬことも無い。

この時、朝のこれほどの光、
これほどのよろこびの中、
雷光の前に掲げられた
松明のように、
シッダールタの馬車の前に
いったいどこからやって来たのか、
立ちふさがる人がいました——

歯の無い、年老いた男が
ひとり、杖をついて。

その身には
肉がほとんど付いていず、
ただ骨だけのようでした!

老いによって
折れ曲がったからだに、
手はふるえ、足も、首も、
ありとあらゆるところが
震えていました。

目には何も見えておらず、
耳には何も聞こえていません——
ただ枝切れのような手を2本、
前に振り、
光の方から闇の方へと
進んでいるのでした——
ただひとりきりで!

力も、付き添いもなく、娘
や息子、友や親戚も無く、
皆に先立たれてしまった——
人生の彩りはみんな乾き切って、
消えてしまった——
どんな楽しみも終わってしまった!

光も彼には苦しみをもたらし、
音も彼の耳には調子はずれに鳴り、
よろこびも彼の元では
悲しみに沈んでしまいます。

男のまわりには暗闇が集まり、
悲しみや苦しみが、
焼けるような痛みが、
刺し子を刺すように走ります——
ただひとりきり、ただひたすら——
よろこびから遠ざかり、
光から遠ざかっていくのです。

いのちは彼を避けるように散り、
歌も沈黙しか返さず、
幸せもけして近づかず、
美しささえ恐ろしさに消えてしまう!

朝の光の上に黒い影が落ちて、
歯のない恐ろしげな笑みを浮かべ、
おばけのようにその男は
シッダールタに向かって言いました——

「わたしを見ろ、
わたしは老い。
わが手からは誰も逃れられない——
わたしはすべてを蒸発させ、
こぼれ落ちさせ、乾かし、
奪うのだ!

わたしを覚えておけ、王子よ!
おまえもやがては
わたしの手のうちにに落ちるのだ——
王子と言っても、老いの手から
逃れることはできない」

そしてあの気味の悪い
笑い声を上げながら
あちこちを見るや、
空の光も大地の緑も、
老いの一目で、一瞬で
消え失せてしまいました。

田畑は燃え上がり、
川は干上がってしまいます——
新しいものも古くなり、
みずみずしいものは
かび臭くなりました。

シッダールタは見ました——
山がくしゃくしゃに崩れ、
木は折れてしまい、
すべてが灰になって、
砂になっていきます——

その中を真っ白な髪が
風に吹かれて飛んでいきます。
千切れた縫い物が土にとられ、
パタパタと揺れ——
歯の無い、おそろしい姿をした
老いは——
この世のすべての光を消し去り、
すべてのよろこびをほろぼして、
すべてを蒸発させ、奪い、
ただ骨を鳴らして拍子を取るのです。

訳責:パロミタ
訳文の著作権はパロミタにあります。
無断転載厳禁。
アバニーンドラナート・タゴールによる
児童文学の名作、仏伝「ナロク」。
毎月1日と15日の更新で
少しずつ翻訳連載していきます。

ベンガル語の原作からの翻訳ですが、
所々英訳”Nalak”を参考にしています。

改行は、スマホやブラウザで
読みやすいような形に
工夫したものです。

次回更新は3月15日(予定)。

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