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仏伝「ナロク」④

アバニーンドラナート・タゴールによる
児童文学の名作、仏伝「ナロク」。
毎月1日と15日の更新で
少しずつ翻訳連載していきます。

ベンガル語の原作からの翻訳ですが、
所々英訳”Nalak”を参考にしています。

改行は、スマホやブラウザで
読みやすいような形に
工夫したものです。

聖者の手を取ったナロクが
道に出て立っていると、
お母さんが
目から溢れる涙を
衣の端で拭いながら、
聖者に言いました。

「私にはナロクしかいないんです。
どうかつれて行かないでください」

聖者は言いました。
「悲しみなさるな。
今日から35年経った時、
ナロクは戻って来るでしょう。

恐れることはありません。
ほら、あなたのナロクを
聖ブッダのおみ足の元に
捧げるのです」

聖者がマントラを唱え、
ナロクのお母さんも
息子の両手を掴みながら
繰り返しました。

「クスマン・フッリタン・
エタン・パッガヘートワーン・アンジャリン
ブッダ・シェーシュタン・
サヴィトワーン・
アーカーシェーマピプージャイェー」

無垢なみ空の下で
ブッダに礼拝します。
美しい私の花(ナロク)を捧げて
ブッダに礼拝します。

聖者はナロクの手を引き
森へ向かいました。

———

再び豊かなヴァルダナの森の、
あのバニヤン樹にやって来ました!
聖者デボルと修行者の一団が、
炎を囲んで座っています。

聖者たちが手にする三叉矛に、
炎の光が反射してチカチカしています。

深い森です。
どこを見回しても
煤のように真っ黒な暗闇の中、
何も見えません。

ただ菩提樹(無花果?)の葉のかたまりや、
太い木の根、
聖者たちのもつれ髪に、
熱い黄金のような
鮮やかな光が
チカチカと映っています——
まるで稲妻のように!

この暗闇の中で、
ナロクは押し黙って
再び瞑想に入りました。

頭上には紺碧の空、
森の木々の下には
身じろぎもしない暗闇。
どこを見回しても何の反応も無く、
誰も何の音も発しません。

ただひとり、聖者デボルが時折、
「それから?」と言いました。
するとナロクの眼前に
情景が浮かんできました。
そして言いました。

「シュッドーダナ王が
聖ブッダをお膝に抱えて、
鹿の皮と象牙の玉座に
お座りになっています。

王の両側には占星術士が
四人ずつ並び、
王の真ん前には
ホーマ(護摩)の炎。

向かいにはゴウタミー・マー(王妃?)、
その四方を囲んでドゥルバー草、
法螺貝の鐘、花白檀、お香が
置かれています。

『祈祷が終わった』
王が祭官たちに言いました——
王子の名前は何になった?

「バラモンたちが言います——

この王子によって、
この大地の民草が
どれほどのアルタ(恵み、宝)と
シッディ(恩寵、完成、奇跡)を
受けることでしょう——

ですからこの方のお名前は、
『シッダールタ』です。

王になればこの王子は
この世のあらゆる富(アルタ)を
得るでしょう。

そして王にならなければ
智慧をきわめ、
世界にその行為の恩恵を
奉仕なさるでしょう。

死してからは
ニルヴァーナ(涅槃)を得て、
自らもその道の完成者(シッダ)
となるでしょう。

そのために、名は
シッダールタでございます。

「王がおっしゃいます——
王子シッダールタは
王子になれば立派な王になられる。

それならばどうして、
国を捨てて森に入り、
悟りを得るための
苦行などをなさるのでしょう?

これについて
博士の皆様ははっきりと
お話しください。

Abanindranath Tagore’s illustration copied and reproduced (with certain re-arrangements), then coloured with Japanese watercolour by Tomomi Paromita. (挿絵を模写の上、独自に着彩。)

「王の八人の占術博士たちは
ペンを手に取り、
計算をしてからおっしゃいます。

最初はシュリーラーム博士が
王に二本の指を見せながら——

大王さま。この方は
王になることもできますし、
出家者にもなることができます。

どちらの方向にも
まっすぐな道が伸びていて、
どちらとも見定めがたい。

シュリーラーム博士の弟の
ラクシュマナ博士も、
同じように両眼を閉じて——
兄の申し上げた通りです。

ジャヤドワジャ博士は
両手を捻って——
そうとも、そうでないとも言えます。

シュリーマンティナ博士は
首を左右に振って——
私の結果も同じです。

ボージャ博士は両眼を見開いて——
こちらも見えるし、
あちらも見えます。

スダッタ博士は首を左に向け、
また右に向けて——
こちらも見えました、
あちらも見えました。

スダッタ博士の弟
スヴァーマ博士は
鼻の両穴に嗅ぎタバコを
押し当てて言いました——
兄の見た通りです。

ただひとり、
最も歳若く、
けれども誰よりも
智慧のあった
カウンディニャ博士が、
指を一本だけ王に掲げて見せて、
言います——

大王さま。
こちらの道かあちらの道か、
こちらでなければあちら、
ということではありません。

この王子さまは、
覚者にならなければ、
何者にもなられないでしょう。
これは間違いないことです。

王子がお部屋に
留まっていることは
無いでしょう。

王子の目の前で
老いに打ちひしがれた老人、
病で痩せこけた人、
死人と、そして
托鉢の出家者が倒れる時、

かの方を囲む
黄金の世界は暗闇に沈み、
シッダールタ王子は
出て行かれるでしょう。

黄金の枷をはめられた鳥が
やがて飛び立つように」

修行者たちはフンと
唸り声を上げて
立ち上がりました。

ナロクが目を開けると、
朝になっていました。

——

それからは何も
見えなくなってしまいました!
その日から、
ナロクが瞑想をすると
見えてくるのは、

陽光の中の炎のように
ギラギラと光る——
空の青を覆い、
風の動きも止める——
黄金の煉瓦が敷き詰められた、
恐ろしいまでの威容を誇る
巨大な黄金の壁でした。

その壁に終わりは無く、
どこから始まっているのかも
知ることができませんでした。

ナロクの心は
鳥となって飛んでいくものの、
この壁に当たって
戻ってくるのでした。

このように何日も、
何ヶ月も、何年も
過ぎました。

黄金の壁の向こう側に
シッダールタが、
こちら側にナロクはいました——
籠の鳥と森の鳥のように。

訳責:パロミタ
訳文の著作権はパロミタにあります。
無断転載厳禁。
アバニーンドラナート・タゴールによる
児童文学の名作、仏伝「ナロク」。
毎月1日と15日の更新で
少しずつ翻訳連載していきます。

ベンガル語の原作からの翻訳ですが、
所々英訳”Nalak”を参考にしています。

改行は、スマホやブラウザで
読みやすいような形に
工夫したものです。

次回更新は3月1日(予定)。

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