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SPAC「マハーバーラタ:ナラ王の冒険」池袋公演を観劇してきました。

「ナラ王とダマヤンティー姫の物語」は、
多くのサンスクリット語学習者にとって
思い入れのあるお話です。

サンスクリット語とは

というのも、学習の最初の方に使う
ランマン教本で、最初に出てくるのが
叙事詩マハーバーラタの中の、この部分なのです。

私はこの物語と、
そこに使われている言葉を題材に
修士論文を書こうと思っていたぐらいで、
(中途退学したので書きませんでしたが、
今でもその内まとめたい気持ちがあります)

その物語を現代演劇
高名な演出家・宮城聡の演出

平安時代の日本に
マハーバーラタが入って来ていたら
どんな化学反応が起こったか?

などというコンセプトで上演される
と聞いたら、見逃す訳には参りません。

「ナラ王の物語」あらすじ前半

あらすじはこんな感じ。

ニシャーダ国の王ナラとヴィダルバ国の姫ダマヤンティーは、美男美女としてその名を轟かせています。お互いの噂を聞いているうちに、会った事も無いのに互いに恋に落ちてしまいます(ここから既にインパクトがある)。

恋の病に落ちたダマヤンティーの様子を見て、父であるヴィダルバ王は婿選び式の開催を決めます。

腕の長い(インド的美男子の条件)ナラ王は婿選び式の会場に向かいますが、そこで、自らもダマヤンティーを得ようとやってきた神々、帝釈天インドラ・火神アグニ・水神ヴァルナ・死神である閻魔ヤマに呼び止められます。

この神々は、ナラ王を見るや「こいつに敵うはずが無い」と見て取り、「おまえ、我々の使者になって、ダマヤンティー姫に神々がお前を望んでやって来たと伝えなさい」と誓わせます。

誓いを反故にできず、ナラ王は泣く泣くヴィダルバの宮廷に忍び込み(神々の力で、誰にも見咎められず!)、言われた通りの事を伝えますが、ダマヤンティー姫は「あなたこそがナラ王ですね。私はあなたを選びます」と宣言。立場上それを承諾できないナラ王に、「誰が何と言おうと私はあなたを選びます。あなたはただ、婿選びの会場においでなさい」と言うダマヤンティー姫。

ハンサ鳥からナラ王の賛辞を連ねられるダマヤンティー姫。ラヴィヴァルマ作。

 画像ソース:ウィキ

婿選び式の当日、神々は何と全員、ナラ王の姿に化けてやって来ます。数多くの王子たちの中立つ、5人のナラ王。5人のうちどれが本物のナラ王か、誰にも見分けが付きません。この時、ダマヤンティー姫が祈ります。

「かの人の事を初めに聞いた時から、私の心はナラ王のもの。この私の貞淑さと真実の力にかけて、神々よ、真実の姿を私にお見せなさい。
心の誓いを裏切る罪を犯せましょうか。この私の貞淑さと真実の力にかけて、神々よ、真実の姿を私にお見せなさい」

このダマヤンティー姫の必死の祈りに、神々は自然とその頂上的な姿を見せてしまい、5人の中でただ一人、影があり、浮かび上がりもせず、瞬きをし、ただ人であるままのナラ王を選び取る事ができたのでした。

この顛末には、神々も2人を認めない訳には参りません。神々は2人を讃え、2人は結婚して2人の子供に恵まれ、ニシャーダ国は太平の世を迎えます。

(記憶にあるサンスクリット版からまとめました・明らかな誤りがあれば随時訂正していきます)

…と、ここまでが前半で
教本に載っている内容ですが、
今回の劇の内容は
この後の後半を描いています

「ナラ王の物語」あらすじ後半

祝宴から帰る途中、神々は賭博の神カリに出会います。これからダマヤンティー姫の婿選び式に向かうと言うカリに、神々は既にナラ王が選ばれたと伝えます。

この事でナラ王を呪ったカリのせいで、数年後にナラ王は急に賭博に取り憑かれ、ついには王国までもを賭けで失ってしまいます。

王子と王女をダマヤンティーの祖国ヴィダルバに逃した後、ナラとダマヤンティーは2人で森に逃れますが、ナラは自らを恥じてダマヤンティーといる資格は無いと考え、妻を置いてひとり去ってしまいます。

ダマヤンティーは気が狂いそうになりながらもナラを探し求め、ある王国に保護されます。そこで旧知の人に出会い、故国に戻り子ども達にも無事再会。ナラ王を誘い出すため、「夫を失ったダマヤンティーが再び婿選び式を行う」という噂を流します。

この時ナラ王は、助けた蛇の王の魔法で、醜男の姿に身をやつして、とある王国の御者と料理番を勤めていました。ナラ王には誰よりも上手な御者術と料理の腕があったのです。

ダマヤンティーが再び婿選び式を行うという噂を聞き、動揺するナラ。仕えている王がダマヤンティーを得ようと奮起したので、御者として共にヴィダルバ国に向かいますが…?

(一応最後はぼかしておきましょう)

ダマヤンティーを置いて去るナラ王。ラヴィヴァルマ作。

画像ソース:ウィキ

この後半部は、前半部に
後世から付け加えた、と
学問的には考えられていますが

現在では、むしろ前半部よりも
後半部の方が、
一般的にはよく知られているようです。

婿選び式「自ら選ぶ」スワヤンヴァラに
象徴されるような
女性自身が選び取り、追い求めていく女性像
叙事詩の世界をはじめとして
インド世界に散見される
強烈で、時に気狂いじみたほど力強い
女性性の一つです。

サヴィトリーの物語などでは、
サヴィトリーは自ら夫を選んだだけでなく
結婚の前から死を予言された夫のために
行を積んで、
彼を連れにやって来た閻魔・ヤマ王を
追いかけて行き、
問答の末についに夫を死から取り戻します。

その意味でも、このナラとダマヤンティーの物語は
サンスクリット語との出会い頭に
この象徴性を当たり前のように提示してくれた
(当時は特に意識的に理解した訳では無かったけれども)
私にとってとても重要な存在です。

南インドの祟る女神〜テイヤムとポンガーラ

SPAC版「ナラ王の物語」2019池袋公演

さてSPAC(静岡県舞台芸術センター)
によるこの公演は、
「平安時代の日本に
マハーバーラタが入って来ていたら
どんな化学反応が起こったか?」
というコンセプト。

伎楽面的な要素も取り入れた
平安ふうの衣装
日本的な身体づくりのできた役者。
声も素晴らしいという他ない。

音楽も舞台の手前の下、
観客に見える所で
パーカッションを中心に
生演奏で行われます。
例えるなら、
ミニマルミュージックと
東南アジアの融合という雰囲気。

演奏者も身体が皆すごくできているので、
どういう事???と思うぐらいだったのですが、
調べてみると、演奏の方も皆さん俳優で、
そもそもは俳優が代わる代わる演奏に入る、
というのが演出家のスタイルなようです。
凄い!

この頃涙もろい私は、
カーテンコール(カーテン無いけど)で
涙をこらえるのに必死でした…。
これが舞台そのものの力なのか、
元々の叙事詩の力なのか。

たぶん両方でしょう。

冬の寒い雨の日、
雨天決行の野外公演でしたが、

あっという間の1時間半
気の逸れる暇がどこにもありませんでした。

神話が現前に現出した…と
しばらく放心したかった
(が、
何しろ凍える雨の日の屋外だったので
すぐに退出)。

全体的に、2年前のマハーバーラタ歌舞伎と
同じ方向性の演出・作り方…
と思ったら、同じ演出家(宮城聡)で、
音楽担当も歌舞伎と同じ方(棚川寛子)

そもそも歌舞伎のマハーバーラタの企画が立ち上がったのは、
5代目尾上菊之助が
この作品「ナラ王の冒険」を観劇して
話を持ちかけたとの事。

フランスのパリを始めとして、
2003年の初演以来、長年に渡り
各地で再演されている作品だったのです。

初演ではありえないこなれ具合
だなと思いましたが、
初演どころの話では無かったのでした。

演劇に疎いので、
高名な演出家だという
何となくの知識はあっても、
どれだけ凄い人なのかは
分かっていませんでした。
どうりで、野外劇場で
寒い冬の雨天決行にも関わらず
しっかり満席になる訳だ…。

11時半の回と15時の回とあって、
私は11時半の回に行ったのですが、
あの雨で濡れた衣装、
15時の回でもう一度使ったのかしら…。

あの雨の中、裸足にせずに足袋で上演したのも凄い。
など、つい気になってしまいます。

しかし、雨の中、めげずに足を運んで本当に良かったです。

(動画は劇場が違うので、演出がまたちょっと違います)

マハーバーラタ歌舞伎の時も思いましたが、
インドの神話や芸能に取り組む
全ての日本人にとって、
希望になる作品・公演だと思います。

この日本人という生まれ・身体を
否定せず、回避もせず
どのように直視し、取り組みながら
それでもインドの伝統に取り組んでいくのか。

それを常に命題として抱えている私には、
まちがいなく、強く大きく輝く希望となるものです。

参考:(Retrieved 23rd November 2019)
マハーバーラタ 〜ナラ王の冒険〜” by SPAC
『マハーバーラタ』を歌舞伎に 菊之助と宮城聡が挑戦” by 内田洋一 (2017)
アーティストインタビュー:宮城聡の演劇世界を支える舞台音楽家の棚川寛子” by 横堀応彦 (2018)

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