本人達に訊いたら、「え、そんなに少ないの?」と言われそうです。
ケーララには、かなりの数の教会があります。
現在、その多くはポルトガル宣教師以来のラテン系カソリック教会…
と思いきや、実は最も多いのは、そのずっと以前から続く東方シリア教会系。
ケーララのキリスト教には、意外なほど長い歴史があるのです。
ここで紹介するのは、そんなケーララ・クリスチャンの踊りです。
聖トマスが宣教した?
西暦52年、この地に使徒トマスが降り立った、と言われています。
よくある眉唾ものの話に聞こえるのですが、
実は当時、アラビア海を挟んでローマ帝国と、インド西南のケーララ地域の交易が盛んで、
むしろその後の千五百年間よりもずっと、当時は
パレスチナからインド西海岸に渡りやすい状況にあったそうです。
ウィリアム・ダルリンプルによると、
シナイの6世紀の教会で発見された「聖トマスの行い」という文書には、
「イエスの死後、使徒トマスはゴンドファレス王に招聘された」と書かれています。
十九世紀末になると、この王の名「ゴンドファレス」が刻まれた貨幣が発見されました。
ペルシャ系(パルティア)のこの王は、
紀元19年から45年まで北西インドを統治をしたということで
一気に聖トマス来訪説の信憑性が高まったのです。
ちなみに「トマス」という名のアラム語の原義は「双子」であり、
この文書には実際、トマスがイエス・キリストの双子であった、とも記されています。
尚、「ゴンドファルネス」の名は現在、複数の王に冠されていたことが確認されています
(英語ウィキ/日本語ウィキ…ただしこちらは出典の明記が無い)。
使徒トマスが実際にケーララで宣教活動を行ったかどうか
については、今も論の分かれるところですが、
彼の同時代人がインドでキリスト教を布教したことに関しては、
概ね認められているようです。
どのように始まったのであれ、その後ケーララのキリスト教徒たちは
シリア正教会と合流し、多数派とはならないまでも、
それなりの力を蓄えつつ生き延びてきました。
現在、キリスト教は西洋と同音異義語のようにも語られていますが、
歴史を辿ってみれば、中国で「景教」とも呼ばれていたように、
あるいは日本で「隠れ切支丹(キリシタン)」が独自の信仰をひっそりと育て守っていたように、
仏教顔負けのグローバル・バラエティを有していたのです。
そもそも当初は、ローマ帝国に迫害されていた、ユダヤ教から派生した一派でした。
現在も、日本ではあまり知られていないというだけで、
種々の伝統や教派が存在しています。
そういう訳で、ケーララにはキリスト教徒に伝わる民俗芸能もあります。
それがマールガム・カリ(道のりの遊戯)です。
クリスチャンの輪舞「マールガム・カリ」
15世紀、ヴァスコ・ダ・ガマの上陸以降、ポルトガルの宣教師たちがインドに入って来ました。
「土着」のキリスト教はやがて弾圧され、
関わる資料もほとんどは灰に帰されてしまったということで、
余計に過去のケーララ・クリスチャンの歴史は謎に包まれているのです。
現在伝わるマールガム・カリは、途絶えかけていた伝統が
何度も再興されてきたという、歴史と努力の賜物です。
(ダルリンプルは、途絶えかけた「マラバールの踊る尼僧たち」の復興の動きについて記していますが、これは恐らくマールガム・カリの事でしょう。)
ティルワーティラカリから派生したとも、
ユダヤ教の結婚式の踊りから派生したとも言われています。
主に使徒トマスの宣教の旅について歌われており、
かつては男性のみの踊りだったそうですが、現在はむしろ
女性によって踊られることが多い踊りです。(ソース:ウィキ)
クリターラム(と思われる、歌い手が使っている小さなシンバル)の使用や
ジャティ(リズム言葉)を旋律に乗せている事、
途中で二人一組になるような振り付けなど、
ケーララ民俗芸能の特徴が見られます。
手の動きなども、非常にケーララらしいです。
この動きの激しさをもって、私のマラヤーラム語の先生は、
これを元々のケーララの芸能だとはあまり感じていないようでした。
しかし、これはあるいは、元々男性によって踊られていたから、
ということもあるのかもしれません。
対して、ヒンドゥー系土着のティルワーティラカリは、
昔から女性によって踊られていて、より女性らしい動きです。
次の動画は少年たちによるマールガム・カリです。
これを見ると、やはり、マールガム・カリは元々、
男踊りの系統なのかな、というふうに感じます。
舞踊劇カタカリでも、男役の動きと女形の動きが違っていて、
女形の動きはモヒニヤッタムにも通じる優雅さがあります。
編成こそティルワーティラカリという、女性たちの踊りにそっくりなのですが、
元々男性のみの踊りだったという歴史が、動きに出ていると考えるとしっくり来ます。
ちなみに、中央のオイル・ランプ。
これ自体はケーララの伝統的なとても一般的なものですが、
ここでは形が聖トマス・クリスチャンのシンボルになっています。
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