🟡 3/29(金)『女たちの音づれの夕べ~パロミタ友美・佐藤二葉の二人会』 🟡

インドの牛の物語〜37ある原生種の話

ヒンドゥー教で牛が尊ばれる…
という話はよく知られている
と思います。
川や大地の女神たちも、
雌牛の姿で描かれる事もあります。

と言っても、今日はそうした、
神話上の牛の話
ではありません

牛と言っても、様々な種類があります。
インドにも多様な牛の種があり
原生種は「デーシー(国の、地元の)」
と呼ばれています。
その37種を網羅する事は叶いませんが、

その多様な牛の種も、
インドにあってさえ、
危機に瀕してしまった事がありました。

ジャージー種を始めとする、
西洋の種が優先されたためです。

世界最小の牛ヴェチュール

外来種との交配が奨励され
法律で定められる程になったのは

主に牛乳の採取量のためです。

たとえばホルスタイン牛であれば
日に20リットル搾乳できるところ
ケーララ原生種のヴェチュールであれば
最高でも2リットルほどしか得られません。

これでは、牛乳農家としては
商売にならない、という訳です。

しかし近年では、
維持に高コストのかかる
混血牛や外来種に対して、
「ゼロ・メンテナンス」と言われるように
南インドの環境に特化した
ヴェチュール牛

病気に強く
食事もなんでも食べ
(特別なものを用意せず
残飯などでも問題無い)

牛乳の栄養素が高いばかりでなく
牛糞や尿素も伝統医療
アーユルヴェーダ
求められる基準を満たすものだとして
再評価の機運が高まり

今では、政府自ら
原生種の飼育を奨励するようになりました。

ヴェチュール

画像ソース:ウィキ

法律で定められた、と書きましたが

元々、強制力ある指導をする
執行官が、外来種との交配や
原生種の去勢を推し進めていたところに、

更に、原生種の場合は
去勢が証明されていなければ
飼育の許可証が下りない
という法律ができたようです。

牛の飼育に許可証が必要な一方で、
許可証を得ると
執行官の指導に従う必要があり
従わなければ罰則や禁固刑もありました。

なので、ケーララのヴェチュール牛が
生き延びたのは、
意図的に法律に従わなかった人がいた事や
一部の寺院の牛
この法律の枠外に置かれたからです。

ヴェチュール牛は
世界最小の牛種である
という事もあり、よく取り上げられますが
もちろん、他のケーララ原生種も
今は保護され、飼育が奨励されています。
希少性と人気の上昇により、
値段が跳ね上がっているのが
現状のようです。

搾乳量の多い種も

とはいえ、原生種でも
搾乳量の多さで知られている
種もいます。
ヴァラナシ近辺の
ガンガーティリという種もそのひとつ。

ガンガーティリ

画像ソース:ウィキ

サーヒーワールという
パンジャーブ地方の種は、
暑い気候に強く
搾乳量も多いという事で、
かつてはオーストラリアや
アフリカなどにも輸出されました。
現在も他州に導入されています。

サーヒーワール

画像ソース:ウィキ

他にもグジャラートのギール種
搾乳量が多く、熱帯の気候や
病気にも強いため、
インド国内のみならず
ブラジルでも地元種の強化に
使われているそうです。

ブラジルにおけるギール種

画像ソース:パブリックドメイン

外来種との交配は
主に搾乳量を上げるためのもので
2015年の記事では、
今ではその政策は
搾乳量の少ない種に限られている、
とありますが
今はおそらく廃止されているのではないか
と思います。

搾乳のための混血牛の奨励は、
野良の雄牛の増加
病気に弱くなるなどの
問題を引き起こしました。

とはいえ、
国内の搾乳量の多い種
上記のサーヒーワールやギールなど
の精子が配られるなど、
異種交配自体は続いているようです。

私は最初に、ケーララの
ヴェチュール牛の飼育事情などから
インド原生牛の事を知り、
また自然農をやっているような
友人もいた私は、
「この人たちはとにかく
この牛ちゃんたちが好きなんだな…」
という印象だったのですが

改めて調べてみて、
酪農界の厳しい現状
少し驚きました。

また、だからこそ
非常に現実的な、シビアな観点から
原生種が見直されている
という事もわかります。

特に熱帯への適性は、
地球温暖化にも後押しされ
重要なファクター
なっているようです。

闘牛にも

アーンドラ・プラデーシュ州原産の
オーンゴール種は、
口蹄疫や狂牛病への免疫
持っていると言われ、

その強靭さと攻撃性の高さから
アーンドラやタミルでの闘牛に使われ、
メキシコや東アフリカ
闘牛にも使われています。

オーンゴール

画像ソース:ウィキ

今ではインドネシアフィジー
ブラジルなどにも
広まっているようです。

また、タミル・ナードゥ州の
有名な牛追い競技ジャリカットゥは
原生種しか参加できません

王国の軍牛だった牛

かつてマイソールの
ヴィジャヤナガル王国
軍牛として庇護を受けていた種に
アムリト・マハルがいます。

乾燥に強く、
長い時間、速く歩き続ける事ができ
馬などよりも重宝されましたが

イギリス領になってから
庇護を失い、
徐々に衰退していきます。

この牛の有用性自体は、
イギリス側も認識し、
軍用に用いられた事もあり、
監督権はイギリスと王家の間を
行ったり来たりしたようです。

1889年、放牧地のアムリト・マハル

画像ソース:パブリックドメイン 

しかし現在(2019年時点)、
1970年代には
120人いた牧場の従業員は
20人以下にまで減り

多くの仕事を外部への委託に
頼っていますが、
土地の手入れや整備も含め
とても人的資源も資金も
足りていない状況です。

1947年のインド独立時点で
40万エーカーあった土地は、
6万エーカーにまで減り
そのうち2万エーカーも
削減される事が決まっています。

そうした環境の中で、
生まれる仔牛の体重
かつて20−23キログラムあったものが
今では8−10キロにも減り
牛乳の量も減っていると言います。

土地の人は、昔は
当たり前のように毎朝、
アムリト・マハルの
搾りたての牛乳を飲んでいましたが
今の子どもたちはその味を
知らないそうです。

「牛」と一言で言っても

駆け足で見てきましたが、
ここに書いた事は、
聞きかじりのつまみ食い
のようなものなので、

ご興味を持たれた方は
どうぞご自分で
ちゃんと調べて下さいね。

ただ、どうしても
インドと牛」と言うと
宗教やナショナリズムとの
絡みもあって、
こうしたよりローカルな、
家畜であり、
何より「生き物」である側面
見落とされがち
であるように思われます。

街中にたくさん牛がいるよ
と言っても、その牛が
どんな牛種で、
どんな境遇でそこにいるのか
ほとんどの人が
興味を持ちません。

その中には、
上にも書いたように、
搾乳を至上としたために
街にあぶれ出した、
去勢された雄牛も
いるのかもしれないのです。

私自身は、ケーララの
自然農法などを実践する
友人などがいた関係で
なんとなくこうした現状の
感覚が入っていたのですが
(それでも野良牛の話は
調べるまで知りませんでした)

日本ではあまり
一般的では無いようなので
少しでもご紹介できればと思い
簡単にまとめてみました。

ちなみに、牛肉にまつわる
あれこれについても
書き出したのですが、
宗教や政治とあまりにも
密に関わりすぎていて
表に出したら差し障りがあるかもな……と
公開するかどうか、
ちょっと迷っています。

参考:(Retrieved 30th December 2020)
原生種
https://www.tnpscthervupettagam.com/articles-detail/the-story-of-indian-cattle

ヴェチュール
https://www.thehindu.com/opinion/columns/sainath/Cattle-class-native-vs-exotic/article13355009.ece
https://www.thehindu.com/society/Going-native/article17283658.ece
https://www.thehindu.com/opinion/columns/sainath/Holy-cow-Small-is-beautiful/article13326276.ece
https://www-thenewsminute-com.cdn.ampproject.org/v/s/www.thenewsminute.com/article/meet-kerala-farmers-silent-mission-conserve-native-cows-135131?amp_js_v=a6&amp_gsa=1&amp&usqp=mq331AQHKAFQArABIA%3D%3D#aoh=16090578209442&csi=1&referrer=https%3A%2F%2Fwww.google.com&amp_tf=From%20%251%24s&ampshare=https%3A%2F%2Fwww.thenewsminute.com%2Farticle%2Fmeet-kerala-farmers-silent-mission-conserve-native-cows-135131
https://m.timesofindia.com/city/kochi/silent-efforts-help-indigenous-cattle-breeds-flourish-in-state/amp_articleshow/74431315.cms

ヴァラナシ
https://m.timesofindia.com/city/varanasi/now-cattle-breeding-centre-where-mughals-held-shikar/amp_articleshow/60759128.cms

オディシャ
https://www.moneylife.in/article/odisha-monk-campaigns-to-save-indigenous-cow/40963.html

搾乳量の多い種
https://www.newindianexpress.com/states/odisha/2020/feb/29/hi-tech-farm-in-odisha-to-conserve-sahiwal-breed–2110219.html
https://en.wikipedia.org/wiki/Sahiwal_cattle
https://www.newindianexpress.com/states/odisha/2015/dec/25/Indigenous-Binjharpuri-Cattle-Breed-Inducted-into-Germplasm-Programme-860352.html
https://en.wikipedia.org/wiki/Gyr_cattle
https://m.timesofindia.com/india/No-to-foreign-breeds-Haryana-to-focus-on-desi-cows/articleshow/47535375.cms

輸出もされてる強い牛
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Ongole_cattle

タミルを中心に、環境適性などもカバー。良い記事。
https://www.villagesquare.in/2018/07/20/native-cattle-breeds-gain-ground-in-tamil-nadu/

カルナータカの元軍牛
https://www.thenewsminute.com/article/why-karnataka-s-native-amrit-mahal-cattle-are-urgent-need-better-conservation-109763
https://en.wikipedia.org/wiki/Amrit_Mahal

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