🟡 3/29(金)『女たちの音づれの夕べ~パロミタ友美・佐藤二葉の二人会』 🟡

一先生の話

年の暮れ、クリスマスイブに
画の松本一(はじめ)先生が逝去されました。
95歳でした。

コロナ以来お会いしに行くことができず、
最後にお会いしたのは
もう5年近く前になります。

私にとっては、
奥様の瑠璃先生と共に
子どもの頃の私を、
そのままに認めて受け入れてくれた
最初の大人のひとりです。

画は何よりも、観る眼差しであると
先生に教わりました。

洋画、油絵の先生ではありましたが、
いつだったか南画っぽい(南宋の画風)
と言われたそうですが
子ども教室でもいつも正座だったし
「日本の先生」という印象が強いです。

奥様の瑠璃先生は、逆に
すごくハイカラというか、
とても洗練された上品な雰囲気の方でした。

その瑠璃先生が亡くなられてから13年、
ダウン症だった長男のてっちゃんが亡くなられて7年、
息子さんともお話ししましたが、
よくここまで留まってくださったと思います。

瑠璃先生のご葬儀のとき、
私はまだオーストラリアで
参列はかなわなかったのですが
「俺はもう画は描かない」
と号泣されていたと聞いています。

それから、少しだけ描いたりもしたけれど
やっぱり、ほとんど描かれなくなりました。

「見せたい相手がいたから描いてたんだね」
と、遊びに行ったときに言われていました。

台湾育ちの先生は
たしか早稲田大学に行かれたあと、
池袋にある舞台芸術学院に
一期生として入学して

そのときに、美術の授業の先生に
「一度、画に取り組んでみなさい」
と言われて取り組んだまま
結局、演劇から逸れて
どっぷりと画の世界に
はまり込んでしまったそうです。

瑠璃先生もその頃の同期で
当時はお付き合いされていた
訳ではなかったそうですが

「一期生はみんな中退して、
誰も卒業してないんじゃないか?」
なんておっしゃっていました。

父親に言われて郵便局に勤めたものの
その父親が亡くなるや、さっさと辞めて
死亡退職金を使ってアトリエを建てて

庭で鶏を飼って、
卵を売っていたそうです。

(余談ですが、その庭には
最後に行ったときには、
アサリの殻が撒かれていて
「海みたいだろう」なんて
言われていました)

私が行っていた頃には、
すっかり住宅街だったけど
昔は農地ばっかりで

陽が傾くと、お百姓さんたちも
危ないからと帰っていく
そんな土地だったそうです。

そのうち、近所の人々に
子どもに画を教えてほしいと
頼まれるようになって
教室を営むようになりました。

旅行に行くたびに
「今度こそは、画を描かない旅ですよ」
と言われるのに、
やっぱり直前になると、
画の道具を入れてしまって
「瑠璃には悪いことしたなあ」なんて

でも瑠璃先生も画家で
二年間、パリに留学したそうですが
帰国すると、
「日本のモデルさんはつまらないわ」
と、あまり描かなくなってしまったそうです。

セルリアンブルーの青は、
あれは作り物の空の色だと思っていたけど
あっちの空は本当にああいう色をしてるんだって
瑠璃が帰ってきて言ってたなあ

そんな話もされていました。

私の画の色を、オーストラリアの色だ
と言ったのは一先生で、

シドニーの昔住んでいた家に行ったとき
本当に私の画の色がそのまんま広がっていて
びっくりしたものでした。

私が台湾に行ってみたいのは
一先生が育った土地を見てみたい
というのが大きいです。

亡くなられてからの方が、
会いやすいような気もするけど
まだやっぱり、
思い返すごとに涙が出ます。

絵を画と書いていたのも一先生で
画とイラストレーションの違いを
私に教えてくれたのも一先生。

「きみ、描けるね。
描けると思いなさい」

「いいね。
ここ、こうなって、こうなる。
ここ、もう一度見てみて」

一先生と瑠璃先生がいたから、
誰がどんな評価を下そうと
私は自分の作品を見下すことが無い

「画はね、出してやらないといけないんだよ」
と一先生に言われて始めた展示は
もう9年目に入り

今、また新たな展開を考えています。

うちに何作かある、
先生の花の画の色紙
次に引っ越したら、
ちゃんと額に入れて飾りたいな。

世間的には無名の画家かもしれない、
でも本当に愛され、
そして人の人生に影響を与えた人だったと思います。

そういえば、青夏会展は
銀座のギャラリーで
定期的にされていたのですが

「大人の展示に出してもいいぐらい」
と最初に言われた中学生のときの作品が、
芍薬のレリーフの元になった画で

今でも、あのレベルには
追いつけていないのではないかと
思うものです。

– – – – – –

ジョイグル
(バウルの挨拶
「あらゆる命が本来に輝きますように」)

今日も明日も良い日でありますように。

パロミタ

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