4月頃、インドの暦では新年を迎えます。
ケーララでは、この日をヴィシュと呼びます。
「インドの暦」と一口に言っても、地方や文化ごとに差異があります。
ケーララで訊くと、
「いわゆるヒンドゥー暦とはけっこう違う、
他の南インドの暦とは少し違いつつもだいたい同じ」
という答えが返ってきました。
ヒンドゥーの新年といったら、八月頃のディワリ(もしくはディーパワリ)かと思っていたけど……と言うと、
「いや、あれは光のお祭りでしょ」とのお返事。
もっともケーララには二つの新年があり、
もう一つが8月頃にある、有名なオーナム祭。
ヴィシュのために用意するものは、
大きな金属の丸いお皿と、それに盛る旬の果物や野菜、
そして黄色い、コンナと呼ばれる花の枝。
クリシュナ神の像に、それから鏡。
それから、ケーララのヒンドゥーのお家では欠かせない、素朴なオイルランプ。
これは一見するとほっそりとした鐘にも見えるような、華奢で優雅なもの。
椰子油を注いで、白い布の端切れを丸めて芯にして、火を点けるというシンプルなものです。
ヴィシュの朝には、日の出前にまずお母さんが起き出します。
そして礼拝の間に行ってランプに火を灯し、
お供え物とクリシュナ神の像を目にします。
その後、お母さんは家族の一人一人を起こすたび、
目隠しをしながら礼拝の間に連れて行き、
その朝何よりも先に目にするのがこの善きものであることを保証するのです。
これはヴィシュ・カニと呼ばれ、
一年の始まりに縁起のよい美しいものを見ると良い一年になる、と考えられています。
コンナはそもそもクリシュナ神に縁の深い花とされています。
クリシュナ神は、大体において、黄色い腰巻を身に纏っています。
コンナの花にまつわる話は数種見かけましたが、基本的にはこういうもの。
あるところに、純粋な心を持つ少年がいました。
この子は、バーラ・ゴーパーラ(子供時代の姿をしたクリシュナ神)に気に入られ
クリシュナ神の黄金の帯をいただきます。
しかし、誰もこの話を信じません。
その上、村のお寺のクリシュナ像から
黄金の帯が失われてしまった事が発覚します。
人々は少年が盗んだに違いないと責め寄り、吊るし上げます。
そんな混乱の中、黄金の帯が投げられて、
ある木の枝に引っかかります。
その途端、黄金の帯は黄色の花に変わり、
その木は美しい黄色の花を咲かすようになりました。
これがコンナの花とクリシュナ神とお話です。
というわけで、ヴィシュ祭はクリシュナ神、ひいては
その本来の姿と言われるヴィシュヌ神の系統のお祭りです。
一方で8月のオーナム祭では、
そのクリシュナが化身だとされるヴィシュヌ神は完全に悪役というか、
あてつけ役になっています。
これを、リーラー(神々の遊戯)と呼ぶ人もいます。
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