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ケーララの寺院音楽、ソーパーナ・スタイル

ケーララ土着のスタイルの音楽を、ソーパーナ・スタイルと呼びます。

南インド全体で古典音楽と認識されているのは
カルナーティック音楽ですが、
ソーパーナはそれと緩やかな関わりを持ちながら、
独自の特徴を持っています。

ソーパーナの意味

ソーパーナムとは、寺院の本殿、日本で言う仏堂、に上がる階段のことです。
伝統的に、その聖なる階段の両脇に立ち、
イダッキャという鼓を奏でながら、神を称える歌が歌われて来ました。

歌うのは、寺院つきのカースト、アンバラ・ヴァースィの男たち。
アンバラ・ヴァースィとは「寺に住む者」という意味ですが、
和風に訳せば、「寺守」あたりが妥当かもしれません。

クーリヤーッタムを担ってきたチャーキャールやナンギャールたちも、
このアンバラ・ヴァースィのカーストに属します。
カーストとしては、バラモンに順ずる存在だそうです。

Photo by Sanu Sph on Unsplash

「ギータ・ゴーヴィンダ」の詠唱

通常、ソーパーナ・サンギータム(音楽)の名が意味するのは、
「アシュタパディ」すなわち「ギータ・ゴーヴィンダ」の詠唱です。

ギータ・ゴーヴィンダとは
12世紀のジャヤ・デーヴァによるサンスクリット語の詩作品。
恋愛詩であり、宗教詩でもあります。

東インドで書かれたこの詩は、
クリシュナ神と恋人ラーダーの恋の駆け引きをうたい、
全インドを爆発的に駆け巡り、
クリシュナ信仰の人気を不動のものにしたとも言われています。

牛飼い女たちとの恋の遊戯と、魅惑のラーダー〜クリシュナ神②

章ごとに、どのラーガで歌われるかが指定されていますが、
現在の同名のラーガに相当するとは限らず、
当初どのように歌われていたかは、定かではありません。

牛飼いの女たちと戯れるクリシュナなど、
この詩は現在も多くの舞踊のモチーフになっています。
かつてはカタカリの一番初めにも、アシュタパディの一節が歌われていたそうです。

ギータ・ゴーヴィンダは多くの名だたる寺院で歌われ、
その存在感と重要性があまりにも強いため、
一般的には、この詠唱が東インドのオリッサやベンガルの方から持ち込まれ、
発展したのがソーパーナ・スタイルであり、
ソーパーナムすなわちアシュタパディである…
などというように思われている節がある――

と、そこまではいかなくとも
(というよりは、普通の人はそこまで、考えません)、
「ソーパーナム即ちアシュタパディ」という構図があります。

「ソーパーナ劇団」主宰の故カーヴァーラム・パニッカル先生によれば、
それ以前から、ソーパーナムでは神への賛歌が歌われていたのであり、
ギータ・ゴーヴィンダが伝わった時、
それはソーパーナムで歌われるレパートリーに組み入れられ、
元々あったケーララ土着の歌い方で歌われた、ということです。

そしてギータ・ゴーヴィンダと並行して、それらの歌も歌われ続けて来ました。

ソーパーナ音楽の名手

ソーパーナ音楽の名を高めるのに大きな役割を果たした、
ニェーララットゥ・ラーマポドゥヴァルによるアシュタパディ演奏。
当時はまだ、寺の外でイダッキャを鳴らすことは普通、ご法度でした。
しかし彼のイダッキャはあたかも歌っているかのようで、
あまりにも見事な演奏だったため、
彼が寺の外で演奏にふけっていても、咎められることが無かったと言います。
(これは、私のマラヤーラム語の先生による説明。)

(更に念のため、付け加えると、この動画の解説ですとか、
おじいさんのレベルのマラヤーラム語は私には追えないので、
彼らがここで何を語っているかはほとんどわからずにこれを書いています)。

下は、その息子さん。

ソーパーナ・スタイルは伝統的に男性によって
受け継がれて来ました。
下の動画では、おそらく初めての女性のソーパーナ歌手が紹介されています。

とはいえ、寺院のソーパーナム(本殿に繋がる階段)
で歌うことを許されたことは、まだ無いそうです(参照)。

上の映像では、チェンギラ(銅鑼)を叩いていますが、
下のインタビューではイダッキャを演奏しながら歌っています。

このイダッキャという楽器は、ソーパーナ・スタイルを象徴するものです。

ソーパーナ音楽の歌唱法と、南インド古典音楽の影響

歌唱法そのものも、南インド古典・カルナーティック音楽とは
共通点もあるものの、
独自の特徴を保持しています。

たとえば即興時、カルナータカ音楽では「タダリナ……」
などの音節を使用しますが、
ソーパーナ・スタイルではア・カーラ(阿音)の使用に終始します。

またカルナータカ音楽ほどの細かい音の動きは無く、
様々な即興の種類があるカルナータカ音楽に対して、
メインとなる歌の前に行うだけと、シンプルです。

更に、リズム言葉のワイターリ(チョッル、ジャティ)の使用がとても多いです
(いわゆる口三味線的なもの。個人的に非常に好きな要素です)。

ラーガ(旋律体系)はカルナータカ音楽と共通するものが多いですが、
特有のラーガもあります。
ターラ(拍)は独自のシステムがあり、
元々は指によるカウントは行わず、手のひら全体で打つのみです。
もっとも、現在はほとんどの音楽家が古典音楽も学んでいるため、
指でのカウントを行う人も多いようです。

ソーパーナ・スタイルは、ケーララ全体で共通する
基本となるものはあるものの、
基本的にはそれぞれの寺院で守られてきたので、
地域や担い手によって細かい違いもあります

伝統的には継承者の間で親から子へと受け継がれてきたもので、
今も基本的にはこれは変わりません。
しかし現在は、「クシェートラ・カラー・ピータム」という、
ソーパーナムを始めとする寺院芸能を教える教育機関もあります。

動画の歌い手はアンバラップラ・ヴィジャヤクマール(Ambalappuzha Vijayakumar)。このように声を張らせた歌い方も、ソーパーナの特徴です。

ここで2分頃から歌われているのは実は、
スワーティ・ティルナール作のカルナーティック古典の歌です。

ソーパーナ・スタイルの系統であるカタカリ音楽でも、
トラバンコー王家のマハラジャ音楽家スワーティ・ティルナールの活躍もあり、
19世紀には既にカルナーティック音楽の影響を受けています。
クーリヤーッタムの開始前に「マハーガナパティム…」で始まる
有名なカルナーティック古典曲が演奏されているのを
映像で観たこともありますし、
境界線は微妙なところのようです。

また、スワーティ・ティルナールの時代に
歌の名手として名高かったシャドカーラ[六つの時間]は、
楽聖ティヤーガラージャにもその才能を認められた
と伝えられていますが、
元々は寺院の音楽家、アンバラヴァースィの出身でした。
つまりこの時から、
ソーパーナ・スタイルとカルナーティック音楽の垣根は、高いようで低かったのでしょう。

シャバリマラ寺院の公式歌手の映像。個人的にとても好きです。

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