🟡 3/29(金)『女たちの音づれの夕べ~パロミタ友美・佐藤二葉の二人会』 🟡

仏伝「ナロク」11

アバニーンドラナート・タゴールによる
児童文学の名作、仏伝「ナロク」。
少しずつ翻訳連載して参りました。

ベンガル語の原作からの翻訳ですが、
所々英訳”Nalak”を参考にしています。

改行は、スマホやブラウザで
読みやすいような形に
工夫したものです。

※スピードを優先して、
翻訳としては推敲の足りない、
下書きのような状態で
出しています。
ご容赦ください。

全編の翻訳を終えたら、
改めて推敲をして、
どこかにまとめて
出すつもりでおります。

石の祭壇のクシの敷物の上に座り、
シッダールタはこの日、
誓いを立てました。

この肉体がもとうともつまいと、
苦しみの終わりを見つける、
見つけると言ったら見つける——
満願しなければ、
目覚めることができなければ、
決してこの敷物の上から動くことは無い。

金剛座(結跏趺坐)で身じろぎもせず座り、
シッダールタは瞑想のうちにこう言いました。

イハーサネー シュシュヤトゥ メー シャリーラム
トヴァガスティ マーマサーニ ラヤム プラヤーントゥ
アプラープヤ ボーダム バフカルパドゥルラバム
ナイヴァーサナート カーヤミダム チャリシヤティ

今、この座で、乾いてしまえ、わが肉体
皮も、骨も、肉も、滅びてしまえ
智慧の目覚めが得られないのなら、
幾星霜の時を経るとも
この身がこの座から動くことは無い

そのとき、マーラという、
恐怖で世界を震撼させる存在、
人々に悪い考えを与え、
悪い言葉を語らせ、悪いことをさせる、
そんなマーラの玉座が、
ぐらぐらと揺れながら現れました。

怒りで顔を真っ黒にして、
マーラは今日、
自ら舌なめずりをしながら
ブッダのもとへやって来ました。

四方から、マーラに従う大群が、
目覚めて現れ出ました!
彼らは駆け寄って来ます、
大変な数の罪が、苦しみが、
傷が、不名誉が、燃えるような痛みが、
汚れが、埃が——
水面のような空のあちらに、こちらに、
広がり、溶け出していくように。

満月の光の上に、
黒い覆いがかぶさっていきます——
マーラが!
その暗闇の中、満月の光だけが見えます——
まるで赤い瞳のように!

そこから雷が落ちてきて、
大地の上には光の代わりに
赤い雨が降り注ぎました!
その赤い滴によって、
星々は消えていきました。

空をひとつかみに掴み、
地下をひと踏みに掴み、
マーラは今日、みずから形をとって、
シッダールタの目の前に
やって来て立ちました。

マーラのからだのまわりには、
赤いチャドルがはためいています——
まるで、人の血で染め上げたような赤さです。
腰には雷の剣が揺れ、
頭の宝冠にはマーラの真っ赤な宝石が揺れ、
耳には輝く渦巻きが、
胸の上には火の首飾りが——
炎の糸で連ねた首飾りが、燃えています。

胸をいっぱいに膨らませて、
マーラはシッダールタに言いました——
「ブッダ≪覚者≫になるためなどと、
無駄な苦行をして!
立て——立ち上がれ!
我は欲望の王者——私はマーラ。
三界のどこにも、
私に打ち勝てた者などいない!

立ち上がるのだ、大層な言葉を吐きながら——
立って、そして去りやれ。
私に勝とうなどと、無駄な努力はするな。
私のしもべとなれ。
神々のごとき豊かさを約束しよう。
この大地の王となってあらゆる贅沢を楽しめ。
苦行をしてからだを痛めつけて、
いったい何になる?

私に打ち勝ってブッダになれた者など、
これまで誰ひとりとしていなかった!」

シッダールタはマーラに言いました——
「マーラよ!
私は生まれ変わるたびに、
ブッダになれるように努めてきた——
苦行を行い、今こそブッダになる。

それからこの座から立ち上がろう。
肉体がもとうが、もつまいが、
私は誓った——

イハーサネー シュシュヤトゥ メー シャリーラム
トヴァガスティ マーマサーニ ラヤム プラヤーントゥ
アプラープヤ ボーダム バフカルパドゥルラバム
ナイヴァーサナート カーヤミダム チャリシヤティ

今、この座で、乾いてしまえ、わが肉体
皮も、骨も、肉も、滅びてしまえ
智慧の目覚めが得られないのなら、
幾星霜の時を経るとも
この身がこの座から動くことは無い

マーラは三度目にまた言いました——
「立ち上がれ、そして去れ、
苦行を放り出せ!」
そして三度目にまた
シッダールタは答えました。

「しない、しない、しない!
この身がこの座から動くことは無い」

怒りから両の目を真っ赤に染めて、
恐ろしい叫び声をあげると、
マーラは空を掴み、引っ張りました!

マーラの爪で引っ掻かれると、
月や星々を纏った群青の空も、
サファイアのサリーのように
粉々になって落ちていきました。

見上げてももはや月も無く、
星もありません。
ただ、何も無い空間があるだけです。
大いなる暗闇だけ!

何かが口を開いて
大地を吸い込みに来たようです。
まるでその黒い舌を伸ばして、
大地の上に分厚い血のような
黒い唾を垂らしたような!

マーラはその暗闇の方に振り返ると、
何ということでしょう、
雷のように二列の白い歯が
突如として火花を発し、
ゴロゴロと音を立てながら立ち現れました。

そして叫びを上げながら、
その何でも吸い込んでしまう口の中から、
マーラの仲間たちが飛び出てきました。

月と太陽が、彼らの手のひらの上で
火の車のように動き回っています!

十方を暗闇に変えながら、
回りながらやって来る——
マーラの軍は竜巻に乗り、
大地に乗り込むと
土埃の旗をはためかせました。

彼らは何もないところから、
いくつものほうき星をグルグルさせながら、
炎のほうきのように投げつけました。

大地から木々を引っこ抜き、
山々を掴み上げると、
ブンブンと音を立てながら
振り回して投げつけ、
四方から止むことない雹のようでした。

何千何万ものマーラの軍隊が、
狂った馬のように、
聖ブッダの四方をぐるぐると
動き回っています。

彼らのひづめから、雷のかけらが落ち、
口からは血の燃え盛る泡が
ジュワジュワと飛んで落ちていきます——

彼の座す菩提樹の四方に、
石の祭壇のあたりに。

Abanindranath Tagore’s illustration copied and reproduced (with certain re-arrangements), then coloured with Japanese watercolour by Tomomi Paromita. (挿絵を模写の上、独自に着彩。)

ウラーイラの森の一本一本の木、
一枚一枚の葉っぱ、一つひとつの花、
それから草ぐさも、
今日は燃え盛っています。

燃え上がる血に、
アンジャナー川の水も、
火に煽られてグルグルと動いています。

雷の刃で剣を研いで、
松明を燃え上がらせ、
血の軍隊は後から後から、
闇の中から出てくると、
ブルブルと震えながら飛び立ち、
そして聖ブッダの上に落ちてくるのです。

彼らの炎の息に、
空は溶けてしまいます。
風は燃えてしまいます。
大地は熱した炭のかたまりのように、
竜巻の中をグルグルと回転し、
炎のかけらを振り撒きます。

その中で燃え上がる一本の
椰子の木を振りまわし、
マーラが呼んでいます——「やれ! やれ!」

足の爪で地獄の底を引き裂き、
悪魔の女王≪マハーマーリー≫が
地上へやって来ました。

今日、マーラの呼び声に、
ぬばたまの闇を纏い布のように
全身にはためかせ、
うなり声を上げながら、駆けてきました——
マーラの女王は。

灰にまみれて褐色の髪は
風にはためいています——
空を、一対のほうき星のように。

あちこちで、悲しみの鳴き声が上がっています。
三界すべてがガタガタと揺れています!
マーラの女王の身体から吹く風が当たった山は、
粉々に砕けてしまいました。

石は塵になり、森も林も燃え上がり、
川も海も干上がってしまいました。

もうどこを見ても、
何も見当たりません!
どこも砂漠の荒地になってしまいました。
何もかもが倒れ横たわり、
燃えてしまい、灰になり、
風に吹かれて飛んでいってしまいました!

世界はぐちゃぐちゃになり
マーラの女王のうなり声、
マーラの咆哮、それから
火葬場で肉が燃えるおそろしい臭い。

そのとき、夜の一刻。
マーラの軍隊、
マーラの女王の軍隊が、
狐のように、
目の充血したコウモリのように、

頭から炎のように軽々と散らばっていき、
四方をハーハー、フーフーと
声を上げながら動き回りました!

空は頭上をグルグルと回転し、
大地は足元でゴロゴロと
音を立てて回転します——
まるで巨大な石臼が
聖ブッダをすり潰そうとしているかのように!

マーラは両手にそれぞれ
雷を灯明のように持ち、
聖ブッダに呼びかけます——
「逃げろ、逃げろ、今こそ苦行を置いて、逃げろ!」

聖ブッダはマーラの方を見もしません、
マーラの言葉に耳を傾けもしません。

マーラの娘の欲望≪カーマナー≫は、
ふたりの妹チャラーとカラーをともなって、
聖ブッダのヨーガを邪魔して壊すために、
大変な努力をしています——

あるときは母君のガオタミーの姿をとり、
またあるときはヤショーダーのように
聖ブッダのもとで両手を結び、
泣きながら地面に身を投げ出しました!

かの方の心を緩ませるため、
瞑想を壊すため、マーラの娘たちは
天界の仙女たちの姿をとって歌を歌い、
舞い踊りましたが、
少しも聖ブッダをたぶらかすことはできません。

金剛座≪ヴァジュラーサナ≫で
堅牢に座っておられる、
彼の瞑想を壊すことが誰にできるでしょうか!

天上・地上・地下の三界を
揺らすことができる、
足元に雷神≪インドラ≫、月神≪チャンドラ≫、
風神≪ヴァーユ≫、水神≪ヴァルナ≫、
そして水面、地面、空中を
下すことのできるマーラ——
そのマーラが、聖ブッダのお力で
粉々に壊れてしまいました!

マーラは今、
聖ブッダの髪の毛の一本も
揺らすことができませんでした。

堅牢なバニヤン樹の葉っぱ一枚、
石の祭壇の角さえ、
欠けさせることができませんでした!

ブッダを前にして、マーラは
一瞬でも立っていられたでしょうか。
再びブッダに向かうことは、
できませんでした。

両手の松明を消し、戦場を止め、
マーラは少しずつ、逃げていきました——
地獄の下、深い闇の中へと、
四方に闇に染めながら。

聖ブッダはそのぬばたまの暗黒の中、
恐れもなく、ただひとりで
座っておられます。

瞑想の中、一刻、また一刻と。
夜の終わりが近づいてきました。
しかしマーラを恐れて、
大地はまた少し、揺れました——
月も上ることができず、
朝になることができません。

そのとき、瞑想を終え、
マーラに打ち克った聖ブッダが、
この世の恐れというものを祓い、
立ち上がりました。

この日、彼は成就し、
ブッダになりました。

苦しみの終わりを見出したのです。
右手で大地に恐怖からの解放を与え、
左手で天の神々に喜びを与えます。

黄金の四肢に、七色の光が降り注ぎます。
その光を受けて、世界がよろこびの内に、
祝福を叫びながら起き出しました。
新たな命を得て、新たな衣を纏って。

ブッダの足元を
ナイランジャナの川が流れ、
こちらの岸辺でもあちらの岸辺でも、
静寂≪シャーンティ≫の水が跳ねています。

 

連載一覧はこちら

お知らせやブログ記事の元になるような雑感など、SNSなしに読めるといいなという方は無料メールマガジンの登録をご検討ください。

最初に、パロミタの自伝シリーズが11回に渡り配信されます。
もちろんお時間無いときはスルーしてくださいね、という前提なのでお気軽にどうぞ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA