アミール・ホスローは
現在の北インド古典音楽カヤールの基礎を築いたとされる
13世紀の詩人です。
シタールやタブラなどの
今やインド音楽のアイコンとなった楽器も
彼の発明だと言われています。
「インドのオウム」とも呼ばれる
彼の詩は、今も
非常に愛されて
歌われています。
カウワーリーという
スーフィー(イスラーム神秘主義)歌謡の
創始者ともされます。
彼の存在は、その生まれと
詩の普遍性から
イスラームとヒンドゥーの
和合の象徴でもあるようです。
アミール・ホスローの生まれ
アミール・ホスローの父は
トランスオクシアナ
(マー・ワラー・アンナフルとも呼ばれる、
中央アジアの南のオアシス地帯)
の出身で
トルコ系民族。
サマルカンドの近くで育ちましたが、
チンギス・ハーンの元(モンゴル帝国)が侵攻して来た事で、
アフガニスタンの北部を経由して
インダス川を越えて
北インドのデリー朝に移住しました。
当時、デリー朝のスルタンも
トルコ系であり
かつて、同じように
中央アジアから亡命して来たという
過去がありました。
これにより、
トランスオクシアナからの移民は
彼の宮廷で、
多く高官の地位をいただきました。
アミール・ホスローの父は
現在のウッタル・プラデーシュ州にある
パティヤリの領地を与えられ
ラジプト系ヒンドゥーの高官の娘と結婚し
アミール・ホスローが生まれました。
(動画は往年のカウワーリーの名手、ヌスラット・アリー・ファテー・カーンによるアミール・ホスローの詩。音のみですが、英語またはペルシャ語が分かる方は字幕で意味が取れます)
アミール・ホスローの生涯
アミール・ホスローは
イスラーム神学、ペルシア語、コーランを
学んだ一方、
8歳の時に父が亡くなった事で
母と共にデリーに戻り
ヒンドゥーである母方の祖父の許
育てられた、と言われています。
自らを「インドのトルコ(トルコ系インド人)」
と詩の中でも語っています。
幼い頃から詩を書き、
やがてその名声はペルシャにも届きます。
主にペルシャ語で詩を書きましたが、
ヒンディー・ウルドゥー語の
前身となった言葉でも書きました。
祖父の死後、軍に入り
捕虜になった事もありますが
やがて詩才が宮廷で話題になり、
詩人としての名声を高めました。
36歳の時に宮廷詩人になりました。
デリーの都を愛し、
そこでイスラームとヒンドゥーが
尊重し合い
平和に共に暮らしていた事も
詩には描いています。
スーフィー(イスラーム神秘主義行者)の
ニザームッディーン・アウリヤーに出会い
弟子になってからは
より精神的な生き方に入っていきます。
(伝統的には、まだ幼い頃に
師に出会ったと言われています)
ニザームッディーンは、
現在も宗教や派閥を超えて
尊崇されている聖者で
その廟には
宗派を問わず多くの人が訪れます。
アミール・ホスローのお墓は
ニザームッディーン廟の
ニザームッディーンの墓の隣にあります。
(ラハット・アリー・ファテー・カーンによるアミール・ホスローの詩のカウワーリー。上のヌスラットの甥)
アミール・ホスローの詩
5代に渡るスルタンを含む
多くのパトロンを満足させ
スーフィーでもあった
ホスローの詩は
7世紀を経た今尚、愛されています。
イスラーム神秘主義であるスーフィーは
神であるアッラーと
直にまみえるという信仰で
その体験に導く師をも、
神に近しい存在として崇めます。
ペルシャの詩では
美しい女性に対するように
神への想いを綴る事が多いようですが
ホスローは、どちらかと言えば
自らを女性のように捉え
愛する人(神)への想いを
うたっているようで
これはインド的な感性と言える
かもしれません。
彼は晩年は、師と神への愛と献身の道に入りました。
以下、All Poetryの英訳より、ランダムに邦訳しました。
ただ一目、私を見ただけ
それだけで
私の視線だけでなく
存在そのものを
奪ってしまった
ただ一目見ただけで
媚薬の酒に酔わされた
碧のバングルを着けた
私のたおやかな手首は
あなたの流し目で
強く絡みとられた
私を染める人
あなたにいのちを捧げます
一目で私を、あなたに染め上げたあなた
私の生涯を差し上げます、
ニザーム
ただ一目だけで
あなたは私を花嫁にした
***
ホスロー、
愛の川は
どこに流れるか分からない
飛び込む人は溺れ
溺れる人は
対岸に渡る
***
私は異教徒
愛だけを信仰している。
イスラームの教典などいらない。
血管の全てが私を縛る。
バラモンの紐などいらない。
無知な医者よ、
私の寝床から去れ。
愛に罹患した患者は
愛する人を目にする事でしか
癒されない。
他の薬などいらない。
船頭がいない舟なら
いないままでいい。
この霧の中に神がいる。
海も私はいらない。
人々は言う、
ホスローは偶像を
崇拝していると。
言わせておけばいい。
人々もいらない。
世界もいらない。
***
***
***
参考:(All Retrieved 6th November 2019)
“Amir Khusro” All Poetry
“Amir Khusro: The Parrot of India” by Sunil Khilnani (2015), BBC Radio
“Amir Khusro” Sufiwiki
“Amir Khusro” Wikipedia
“The Enigma of Amir Khusrau’s Contribution to Indian Music” by Yousuf Saeed
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